思ったよりブスだったのか
コロナウイルスのせいで、夏でもマスクを着け続ける羽目になった。
慣れてはきたが、やはり鬱陶しいのは変わらない。
マスクというと、ちびまる子ちゃんのとある話を思い出す。
歯医者に通うことになったまる子のお姉ちゃんが、
イケメンで爽やかな歯医者さんに一目惚れ。
歯医者はほとんどの人にとって憂鬱なものだけど、
お姉ちゃんは楽しく歯医者に通っていた。
でもある日、その歯医者さんがマスクを外したら、お姉ちゃんは幻滅。
そう、マスクで分からなかったけど、
歯医者さんはブサメンだったのだ…というようなお話。
そして私は、似たような経験をした事がある。
いや、させた事があると言うべきか。
大学生の時、養護学校に実習に行った。
教員免許を取得するためのカリキュラムの1つだった。
養護学校にはそれまで縁のない人生を送ってきたけれど、
そこで働く先生からは、
教員ならば知っておくべき情報をいろいろと聞くことができて、
2日間だけだったが、とても有意義な実習だった。
例えば、(当時は)養護学校の対象となる障害を持つ子どもが産まれる確率は、
6〜7%くらいで、
100人の子どもがいたら、
その内の6、7人は障害を持って産まれてくるということだから、
決して少なくはないということ。
また、養護学校に通える子どもは幸せで、
場合によっては、
施設に預けられっぱなしで、
親から事実上の養育放棄をされている子どもも大勢いること。
世間ではメジャーな情報なのかもしれないが、
当時の世間知らずで無知な私にとっては、きっと衝撃だったのだろう。
今でもその話を聞いたときのことをよく覚えている。
とにかくそんな有意義な実習中、
どうしてだったのかは忘れたが、マスクの着用が義務付けられていた。
だから私も他の実習生も、
みんな2日間、マスクを付けっぱなしで実習に参加していた。
2日目の最後、先生と児童の前でお別れの挨拶をすることになった。
実習生は前に立って、その時は声が届くようマスクを外して、
1人ずつ感想や学んだことを述べていった。
私の番が回ってきて、話をしようとマスクを取った瞬間だった。
1人の中年の男の先生が、マスク無しの私の顔を見て、こう言った。
「あれ、思ったより……」
想像していた印象と、私の顔がちょっと違ったのだろう。
そんなことを一瞬思いつつ、
その時はあまり気にも留めないで、
私は実習がとても有意義で楽しかったことと、
お世話になったお礼を述べ、無事にカリキュラムを終えた。
しかしその翌日、その時は気にも留めなかったあの先生の言葉が、
ふと脳裏にちらつくようになった。
思ったより……、の後に、どんな言葉を秘めていたんだろうか。
正解は2択しかない。
「思ったより美人だった」か「思ったよりブスだったか」。
まあ、思ったよりブスだったと思われてしまったとして、
もうきっと二度と会うことのない養護学校の先生に、
どう思われようと何の支障もない。
だから気に留めなければ良いのだが、
時々、マスクを着けているとそのことを思い出すのだ。
しかも、今この文章を書いていて思ったが、
思ったより美人だったと思われたのだとしても、
それはすなわち、「顔の上半分は微妙ですね」と言われているようなものだから、
決して褒められてはいない。
どちらの感想だったとしても、
あの先生は、私の顔をそれほど評価してはくれなかったという事になる。
まあ、別に良いのだが。
良いのだが、やっぱり思い出す。
養護学校での実習は、本当に意義のある充実したものだったのに、
そこで学んだ何よりも頻繁に思い出すのは、
あの「思ったより」発言をした先生なのだ。